あの200クラウンは一体何者だ? と思った人も多かったに違いない。MTに参加していたイベント常連組でも、またアワード審査員を務めた各ブースの担当たちでも、このクルマの素性を知る人はほとんどいなかっただろう。
今回のMTに参加するより以前、イベントエントリーの経験は、「2回しかなかったと思います」。
200クラウンを購入したのは4年前で、近江クンが二十歳の頃。高校時代からの憧れだったクルマを手に入れた彼は、半年に1度のペースでコツコツとリメイクを重ねる。
「それでもエアロはポン付けレベルだったし、フェンダーまでやろうとは思っていませんでした」。
しかし、同級生のクルマ仲間が「もっとがっつりイジる」と言い出したことに刺激を受けて一念発起。どうせやるなら徹底的にということで、外装フルメイクを決意する。
板金入りは今年の夏前で、完成したのはMT前日。リメイク内容は、エアロフル加工・ボンネット加工・前後フェンダー加工・ホイール変更・オールペンetc。リメ前の面影といえば、純VIP GTのスピンドルくらいで、ほとんど別のクルマに生まれ変わってのMT参加となった。道理で誰も知らないわけである。
ともあれ、新旧の強豪を含めて全327台が集った会場の中でも、ひと際輝いていた200クラウンである。レクサスモチーフのエアロや、グラマラスなワイドフェンダーといった注目要素もさることながら、このスパルタンなオーラも、多くの視線を集めた理由の一つだろう。
カラーはオリジナルガンメタと黒のみで、メッキすら排除。ダクトはなし、光モノもなし。装飾的なモノを挙げるなら、リアガラスの隅に貼られたショップステッカーくらい。
「がっつりやるにしてもシンプルに仕上げたかった。一応、テーマはGTマシンですが、それは正直後付けみたいなもの。スポーティを意識して、自分なりのイジりを組み合わせたらこうなったという感じです」。
つまりはオーナーのセンスの賜物ということ。VIP歴4年、自身初のセダンで、これだけ雰囲気のあるクルマを作れるのは凄い。
「ショップや仲間のお陰だと思います。ちなみにフェンダーは、同じ地元・広島の赤松譲サンの50シーマを参考にさせてもらいました」。
赤松50シーマといえば2013年5月号の表紙車。突如としてイベントシーンに現れ、VIP歴僅か2年でカバーカーの座を射止めた稀有な1台だ。そのフェンダーをお手本にしていると聞けば、おのずと今後の活躍にも期待が高まってくる。
前後バンパーのモチーフはレクサス車。具体的にはフロントが30IS Fスポーツで、ベースエアロの純VIP GTのスピンドルデザインは生かしつつ、それ以外をガラリと作り替え。フォグポケット下部の「へ」の字型の造形や、センター開口部脇の立体的な段差など、30IS Fスポーツの雰囲気を忠実に再現している。
「といってもそのまんまという感じではなく、ワンオフの別体アンダーフラップを装着するなど、アレンジも加えています」。
リアのモデルはRCだが、純正ではなくロケットバニーのエアロが元ネタ。こちらもテイストのみ採り入れたカタチで、腹下からせり上がってくるようなフラップは、本家のように飛び出させず、リアバンパーにフィットさせる形状に作り込んだ。
「あまりレーシーに振り過ぎると、セダンらしさがなくなる。あくまでも200クラウンに似合うデザインにしてもらいました」。
一方でフェンダーは、前述の通り赤松クンの50シーマをモチーフに、フロントはブリスター、リアはブリスター+オバフェンという構成で製作。いずれも膨らみの範囲は広く、
「フロントはボンネット脇から、リアはドアガラス直下の高さから張り出させることで、全体的にボリュームアップ。どっしりと低重心なフォルムを作りました」。
それでいて純正のボディラインは崩さない。だから数値でいえばF5・R10センチとけっこう出ているのに、その割には純正っぽいというか、実に自然。こうした「違和感の無さ」も近江クラウンの特徴だ。
例えばヘッドライトの位置も、密かに前方へ数センチずらし、それに合わせてボンネットも5センチほど延長している。これはハンドルを切った際、ヘッド裏とタイヤの干渉を防ぐための措置なのだが、言われなければまず気付かないはず。
大技でも大味ではない。むしろ繊細過ぎるほど、バランスやディテールには気を遣っている。その配慮がアワードにも結びついたのだろう。
「受賞にはまさかという感じで驚きましたが、それ以上に嬉しかった。もっと沢山の方に評価してもらえるよう、これからも頑張りたいです」。
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クラウンオーナー車
厳選紹介
●VIPスタイル編集部
掲載:2018年2月号_巻頭特集 逆襲のシナリオ
文=佐藤 知範 写真=高原 義卓