VIPスタイル 2018年4月号掲載
2018年にインタビュー
4年前、息子の13歳の誕生日にDSRカメラをプレゼント。そのカメラで愛車の動画を撮影したのが、ユーチューバーになる最初のきっかけ。そして、得意の日本語で大好きな「VIP」をレポートした動画を上げると、あまりの面白さから一躍話題の人物に。そんな彼が今、週末の楽しみにしているのがクラウンとシーマでのドライブ。正真正銘のアメリカ人の愛車が、なぜ日本のVIPなのか。日本車好きになった知られざる青春時代のエピソードと合わせて紹介していく。
「正直、日本車には全く興味がなかったんです。というよりも、むしろ嫌いなぐらい(笑)。父親がアメリカンマッスルカー一筋で、その影響でカマロとかマスタングとか、そういうパワーのあるクルマが大好きでした。僕は1970年生まれの47歳なんですが、70年代から日本車が大量にアメリカに入ってきた。幼い頃に見た日本車っていうのは、安っぽくて、小さくて、パワーがなくて……。『何でこんなのに乗るの?』って、そういう最悪なイメージしか持っていなかったんです」。
そんな彼が今、大人気ユーチューバーとして、日本のクルマ業界で一目を置かれている。チャンネル名は『スティーブ的視点』で、視聴者数は約11万4000人、総視聴回数は約2900万回というから凄い。
その中でスティーブさんは驚くほど流暢な日本語で、日本車を中心とした改造車をユーモアを交えながらレポートしていくのだが、これが本当に面白い。オススメは沢山あるが、特にVIP愛に溢れている13クラウンや31シーマを紹介している回は、楽しいだけでなく、嬉しい気持ちにもしてくれる。
それにしてもなぜ、生粋のアメリカ人である彼が、日本語で日本車を解説しているのか。日本車は大嫌いだったはずなのに。
「1991年の夏休み、21歳の時に初めて日本に来ました。僕はウィスコンシン州立大学の学生で、経営学を専攻していました。その頃の日本は空前の好景気で、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』という本がベストセラーになったりして、あらゆる人が世界一の経済大国だと認めていた。僕もこれからは日本だと思い、大学では日本経済はもちろん、日本語も一生懸命学びました」。
その大学に留学生として来ていた日本人と友達になり、「そんなに日本が好きなら、ウチの実家の僕の部屋に泊まったら?」という話に。期間は夏休みを利用しての僅か2ヶ月。そして、そこで一目惚れしてしまうのである。
「クラウン、シーマ、ハコスカ、ケンメリ……。一瞬でめちゃめちゃカッコイイ!ってなった。それまでの僕は小さくてパワーのない日本車しか知らなかったんだけど、『こんなカッコ良いクルマがあるんだ』って驚かされた。あと、街道レーサーとか、当時の改造の仕方も自分の好みにピッタリでした。あんなに凄いオーバーフェンダーを見たのは初めてで。元々嫌いだっただけに、好きになると反動が凄くて(笑)、それで一気に日本の改造車に目覚めたんです」。
日本人留学生の友達からの何気ない誘い。それにのって日本に来たら、クルマの趣味が180度変わってしまった。実は変わったのはそれだけではない。その友達の実家は埼玉県の養鶏場。ホームステイ中の2ヶ月間、養鶏場でアルバイトをさせてもらうのだが、卒業の年に『日本の養鶏場での経験』をテーマに全米日本語弁論大会に出場すると、なんと最優秀賞を獲得。そして、その副賞として日本航空からファーストクラスのチケットが贈られ、あれよあれよという感じで、憧れの日本企業への就職も決まった。
「卒業後の5年間、日本でお世話になりました。就職先はコンピュータ会社。そして、2年で独立して、日本で有限会社を設立。そこで翻訳や通訳の仕事をしつつ、今の僕の本業である不動産の仕事をするようになったんです。今思うと、あのホームステイは僕の人生のとても大きな転換点だった気がします」。
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その後、満を持してアメリカに戻るのだが、日本にいた5年間で10台近くの日本車に乗った。セダン系だけでも、ローレル、32セドリック、16アリスト、30セルシオ、50プレジデントと、5台も乗り継いだ。
「アリストは見た目が好みじゃなかったけど、ターボで速いのが良かった。セルシオはパワーもあるし、スムーズな走りが良かったですね。最高だったのはプレジで、ソブリンだったんですけど、見た目もカッコイイし、室内も広いし。アリストとセルシオの時は、近所にイエローハットがあって、そこで買った安い19インチを入れたりもしました」。
その頃のスティーブさんは、身も心も日本車の魅力にどっぷりとハマっていた。日本車はカッコイイし、性能もいいし、壊れないし。中古車の程度の良さにも惚れた。
「日本人は物を大切にするし、車検制度も整っているから、程度が本当に素晴らしい。アメリカには車検制度はなく、そのせいで整備が行き届いていないクルマばかり。あと、アメリカは広いから20〜30万キロ走った中古車がざら。でも、日本の中古車は5万キロそこそこがほとんどで、アメリカ人の僕にとって5万キロは新車と同じ(笑)。日本で多走行って言われる10万キロだって、アメリカでは『ちょっと走ったかな』ぐらいなんですよ(笑)」。
大学で日本のことを学び、念願だった日本での就職も果たした。初めて来た時に日本車に一目惚れし、そして、実際に何台もの日本車を乗り回した。こうした経験があるからこそ、ユーチューブの『スティーブ的視点』は多くの日本人にうけ、愛を感じるレポートに僕らは親しみを感じるのだろう。
そして、ユーチューブを始めて3年目の昨年。東京オートサロンの会場で、ジャンクションプロデュースの武富サンと出会った。
「ジャンクションプロデュースはアメリカでも有名だし、僕は日本で仕事をしていた時にJP仕様のクルマを見たこともあって、カッコイイなって思っていたんです。そして、話し始めてすぐに、代表の武富サンが70年10月16日生まれで、僕は10月18日生まれなんですけど、偶然にも同級生というのが判明して、それで一気に意気投合(笑)。その時、彼に僕の夢を話したんです」。
それが13クラウンの輸入。初めて日本に来た時に一目惚れした、あの13クラウンや31シーマをアメリカで乗りたいー。そして、自分の何よりも大切な日本の改造車をアメリカ人にも知らしめたい。
武富サンはその思いに応え、昨年の3月に白い13クラウンを、6月にシルバーの13クラウンを、9月に31シーマをアメリカに送り届けた。その様子の一部はユーチューブにアップされているので、ご覧あれ。
「もうね、最高ですよ(笑)。近所の人の反応は、『何だあれ!?』って感じで不思議がる人がほとんど。警察にも大人気で(笑)、結構よく止められます。みんなにこのクルマのことを話すと、『凄いね!』って言ってくれるんです。特にシーマのハンドルには全員が驚く。シーマのハンドルは真ん中が固定されていて、外側だけが回るんですけど、こんなのはアメリカにはないですから。しかも、その固定されている部分にはマルチとかのスイッチボタンがいっぱいついていて、みんな『触っていい!?』って聞いてくるんですよ」。
日本のVIPの礎を築いたと言っても過言ではないトヨタとニッサンの名車。確かに一目惚れしたクルマではあるのだが、輸入してしまうほど、どうしてそんなに好きなのか。
「仕事で毎日乗るなら、今の新しいレクサスが一番だと思います。壊れないし、よく走るし、快適だし。だけど、週末のプライベートを共にしたいなって思うのは、僕はクラウンとシーマなんです」。
スティーブさんの本職は全米ナンバーワンの不動産会社のエージェント。日本にも年に3〜4回ほど仕事に来るそうで、文字通り、世界を股に掛けるビジネスマン。そんな忙しい彼の癒やしが、愛車である日本のクラウンとシーマなのだ。
「運転していて気持ちがいい。音もいいし、匂いもいいし、車高短でガタガタするところもいい。それに、アメリカで乗っている人がほとんどいないので、めちゃめちゃ目立てるしね。そういうのが楽しいし、僕をリラックスさせてくれるんですよ」。
『スティーブ的視点』を始めたのは、
僕の動画で皆を笑顔にしたいからー。
大好きなVIPでアメリカと日本を繋ぎたい。
13CROWN
エアロはジャンクションプロデュース。車高は、純正のバネを自分でカットして、落としたそう。ふさも大のお気に入り。
31CIMA
こちらもJP仕様。ホイールはBBSがついている。「ターボ付きで、めちゃめちゃ速い。ドライブするのが楽しいです」。
13CROWN
「マニアなんで、一台じゃ満足できず(笑)」、色違いのクラウンも輸入。3台共、JPの武富サンが手配してくれた。
OTHER CARS
写真上から、ポンテアック トランザム、フェラーリ308GTS、ポルシェ356A、フォード マスタング、シボレー カマロRS、デ・トマソ パンテーラ。1960〜1970年代の稀少な名車も販売している。特にエレノア仕様のマスタングは大人気の一台。
●VIPスタイル編集部
文=田中 覚
2018年4月号掲載
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