全国には、数多くのドレスアップ専門ショップが存在する。
筆者も長きに渡り各地のショップを取材してきたが、ここまでアットホームなお店はなかった。
33セドリックに乗る小野クン、クルマをここまで仕上げたストリートモンキーの高橋サン。
年齢がかなり離れている2人は、声を揃えて「うちらは父親と息子みたいな関係」と語ってくれた。
今まで行ったことがない人にとっては、「プロショップは敷居が高そう」というイメージを持っているはず。
しかし2人は単なる「お店とお客サン」という関係には見えず、どこか暖かい。
いろいろな意見があるかもしれないが、これもショップの理想的なカタチのひとつなのかもしれない。
同じクルマに乗っていたいとこの影響で、18歳の時に33セドを買った小野クン。
当初はクルマ屋を営む実家でエアロや車高調を組んでいたが、ハードなドレスアップはできないため、新たなお店を探すことに。
「今まで組んでいた車高調ではダウン量が物足りず、新しい車高調を買おうと思いました。
そこでひと足先にオーディオのデッドニングをやってもらった友達に、ストリートモンキーさんを紹介してもらいました」。
以前からアメリカンカスタムやカーオーディオ業界で、その名を轟かせていたストリートモンキー。
それまでお店の存在を知らなかった小野クンは、ズラリと並んだショーカーレベルのクルマたちを見て、
「最初は敷居が高いと感じました(笑)。でも他のお店は知らないし、ここでしか買えないと思ったので」。
対応の良さに惹かれ、その後は何回もお店に足を運ぶようになった。
一方高橋サンから見て、小野クンはどういうお客サンなのだろうか?
「人懐っこくて、結構しゃべる子だと思いました。自分がやりたいことをしっかり話してくれるところも、彼の良いところではないでしょうか」。
高橋サンの勧めで、車高調ではなくエアサスを組んだ33セド。
地面スレスレの低さを手に入れ、大満足の小野クン。
そこで高橋サンは、彼にイベントのエントリーを提案した。
「よくお客サンに、『イベント行く?』って誘いますね。賞を狙うというより、遊びに行く感覚でイベントの雰囲気を楽しんでもらいたくて」。
こうして小野クンはショップのお客サンと一緒に、初めてイベントにエントリー。
残念ながら、トロフィーをもらうことはできなかった。
「悔しかったですね。賞が獲れなかったからではなく、ギャラリーに見向きもされなかったことが悔しい」。
もっと多くの人に見てもらえるカッコいいクルマを作りたい。
そう決意した小野クンは、イベントの翌週にストリートモンキーへ足を運ぶ。
「フェンダーを出したいです!」。
ここから二人三脚による、本格的なドレスアップがスタートした。
まずは外装をフルリメイク。
オーナーが絶対やりたかったオーバーフェンダーに加え、エイムゲインのエアロも加工。
どうせ塗り直すのだからと、オールペンも同時に行った。
フェンダーを小野クンが持ち込んだマイスターS1(現在はM1)に合わせ、鉄板溶接で製作した。
「僕の要望としては、ミミはクッキリだけどアーチの頂点はあまりクッキリさせないように。あとはリアドアも膨らませて、角もドアらしいカタチをしっかりと残すことでした」。
板金も自社で行うストリートモンキーだが、意外にもセダンのフェンダー加工は初めて。
もちろん前後のフェンダー製作経験は豊富だが、
「うちのお客サンは2枚ドアのクーペが多かったので、リアにもドアがあるセダンはどうやって作ればいいのか、最初はかなり悩みました」。
イベント会場に行き、セダンのフェンダーを研究。
あらゆる角度から写真を撮り、もしリアのドアが開いていたら裏側までチェック。
何度もやり直した末、ドアを開けても角の造形が自然なフェンダーが完成。
「周りから、『キレイなフェンダーだね』と言われるのが嬉しいです」。
エアロはエイムゲインと、AMG・W211Eクラス用をニコイチ。
フロントは小野クンが使いたかった40LS600hフォグ、そしてフォグ周りが寂しく見えないように高橋サンが提案したアクリルフィンでオリジナリティを演出。
だがニコイチが完成して装着した時、何かが違うと真っ先に気付いたのが、ストリートモンキーに通うお客サンだった。
「フロントバンパーの中央が尖っているのに、グリルのフィンはストレート。
『これ、変じゃね?』って」。
そこでグリルのフィンも少々尖らせたら、すごく自然な表情に仕上がった。
またグリルの塗り分け、マツダのソウルレッドにキャンディレッドを重ねるというボディカラーの提案も、常連のお客サンたち。
みんなで製作中のクルマを見ながら、あれこれ意見を出す。これもアットホームなお店ならではの光景である。
「うちのお客サンは、他のクルマに対しても真剣に意見をくれる。そういう意味ではうちは恵まれてるかな」。
最新仕様である内装&トランクオーディオも、1年半という長い製作期間を要したが、2人で打ち合わせしている時間は楽しかったという。
「シートのデザインは、社長と2人で考えました。直線的なラインは定番なので、少し角度を付けています。他と被らないのがイイですね」。
完成後に参加したイベントでは、セダン総合2位。
もう、誰も見向きもしないクルマではなくなった。
「やりたいことは、まだまだいっぱいあります。これからも社長と一緒にクルマを進化させていきます」。
●VIPスタイル編集部
初出:VIPスタイル2018年8月号
文=岩田 直人 写真=奥山 貴嗣