これはセダンに限った話ではないが、昔と比べたらドレスアップ人口が減っているという声を聞く。その現状を危惧しているパーツメーカーやショップも多いが、ピースの代表である田部井サンもその1人。愛車の18クラウンをドレスアップしながら、イジる楽しさを多くの人に伝えるべく積極的に活動している。この業界を、あの頃のように盛り上げるために。
埼玉のプロショップ・ピースの代表としてお客サンのクルマ作りをサポートする一方で、自身も18クラウンをドレスアップして各地のイベントを走り回っている。しかも最近はエントリーを控えているのに、である。田部井サンのようにここまでバイタリティや行動力がある作り手は、果たして全国に何人いるのだろうか。現在の仕様もこれまで数多くのドレスアップカーに携わり、イベント行脚で培った経験が生きている。しかし自分のクルマイジりだけを楽しむのではなく、お客サンたちにドレスアップの楽しさを伝えることも常に考えている。
「最近はSNSが主流でリアルな交流が少なくなり、イベントもエントリーするクルマのレベルがかなり上がり、初心者にとっては敷居が高いと感じることもある。だからイベントは賞を狙うだけじゃなく、楽しむ方法はいくらでもあることを伝えたいです。イベントは楽しくて面白いことをアピールすれば、うちのお客サンやクルマ仲間も興味を示すだろうし、交流もさらに深まる。ドレスアップユーザーの数を増やさないことには業界も衰退しますから、かつての全盛期のような勢いを取り戻すことが目標です」。
だから彼は、これからも18クラウンでイベントに行く。イベントは賞がすべてではない。場の楽しさを多くのセダン乗りに知ってもらうことが、今の自分の「使命」と考えているからだ。現在のクルマの仕様もイベント入賞を意識せず、自分がやりたいことをすべてカタチにしただけである。だがトータルバランスは限界まで追求した。どこから見ても違和感がなく、自然に仕上げることにこだわっている。
「もし気に入ったパーツがあっても、寸法が微妙に合わなかったり付けた時にバランスが悪いと感じたら諦める。最近のクルマはほぼカタチができ上がってますが、その中のわずかなマイナスポイントをプラスに変えるようなイジり方を心掛けています」。
いち早く移植した210アスリート後期グリルも、後期が出た直後にディーラーに行ってグリルの寸法を測って「合う!」と分かった上で採用。ライトも210後期だが、使ったのは中身だけでガワは18系のままだから、いかにも移植したという印象は皆無。エアロの加工も、ナチュラルなブリスターも、あらゆる角度からの見た目を考慮したフェンダーダクトもそう。やっていることは大ワザばかりだが、すべての加工が「自然」なのである。
前述の通り、自分がやりたいようにイジっているから、明確なドレスアップのテーマは設けていない。しかし、常に意識しているのは「日本らしさ」。
「日本から世界に発信しているドレスアップのジャンルにおいて、今も根強く残っているのがVIP。昔ながらの伝統を生かしながら、『日本らしいドレスアップとはこうなんだよ』と、世界に広めたいと思っています」。
欧州車や海外のトレンドに影響を受けてイジっているユーザーは非常に多いが、あえて「日本」を全面に押し出すやり方で違いを出した。例えばボディカラーは、グリルと同じく210クラウン後期の純正色・紅。
「もともとボディを赤で塗ろうと決めていて、マツダの赤かオリジナルのキャンディレッドで迷っていました。でも210後期のカタログを見ていたら、まさか色の名前が日本語とは思わなくて、速攻でこの色に決めました」。
光の加減で印象が大きく変わるところに加え、色の名前で決めたというのが面白い。テールもバルカン風のレンズを移植して、日本伝統の花火に見えるようにアレンジ。クルマ好きの外国人からの反響が気になるところ。
そして内装も然り。明るい青をメインとし、赤と白の差し色を加えた絶妙な3色使いは、サッカー日本代表のユニフォームからヒントを得た。
「サッカーはやらないですが(笑)、サムライブルーって多くの人に浸透している色なので、クルマ好きじゃない人にも興味を示してもらえるのではないかと思いました。あと僕のキャラ的にも、遊び心を入れた方が見た人に楽しんでもらえるかなと(笑)」。
最新仕様のひとつであるトランクオーディオも、日本を連想させる色使いが決め手。さらに高い技術力が光る独創的なアクリルワークとLED光で、オリジナリティを演出した。
「ウーハーの箱までアクリルで作ったのは珍しいと思う。だからすごく奥行きがあるように見えるんです」。
本当に楽しみながら愛車を進化させている田部井サン。今、この記事を読んでいるあ
なたも、自分のペースでいいからVIPを長く愛して欲しい。
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文=岩田 直人 写真=木下 誠