ジャンクションプロデュースの武富孝博。ガレージ44の馬渕孝一。武富サンはセダン乗りなら誰もが知る有名人だが、馬渕サンのこともご存じならあなたは当時通。創世期からセダンをイジり、今では業界側からドレスアップをサポートする2人を迎え、対談企画を実施。「当時」にまつわるトークで大いに盛り上がる。
ジャンクションプロデュース(以下JP)の武富サン、ガレージ44の馬渕サンは「VIP」というジャンルが誕生する前から高級セダンをドレスアップしていた。今では業界側からVIPセダンを盛り上げるこのお2人だが、ドレスアップオーナーとしての経験も豊富。セダンチームを結成したのも早く、「VIPカンパニー」の名は後にドレスアップのカテゴリー「VIP」が生まれるきっかけになったと言われている。
馬渕 VIPカンパニーは92年3月に結成。たまたま身近な仲間がセダンに乗っていて、31グロリア2台と31シーマ1台が揃った。それで「ステッカーを作らないか?」という話になって。僕はその時31グロリアのブロアムVIPに乗っていて、「VIP」を辞書で調べたら、「紳士的」とか「高級」という意味だった。それならVIPの集まり、ってことでVIPカンパニーにしたんだよね。Y31の集まりだから「ワイズカンパニー」という案もあったけど。
武富 馬渕クンは海寄りの泉州側の人間やけど、僕は河内の山の方。地元が違うからそれまで交流はなかったけど、たまたま岸和田にカスタムオーディオ屋サンがオープンしたから行ってみたら、藤原クンに声をかけられた(編集部注:VIPカンパニーのメンバーに、それぞれ31シーマに乗る藤原兄弟がいた。兄はチューニング、弟はオーディオに凝り、雑誌にも多く取り上げられた)。その藤原クンを通じて馬渕クンと知り合い、VIPカンパニーをやっていると聞いて入ったのが始まりかな。
馬渕 当時はイベントがなかったから、活動内容はクルマの見せ合い(笑)。みんなに内緒で新しいパーツを付けて、週末にお披露目する。あとはツーリングに行くくらい。
武富 当時のセダン乗りって、あまり友好的じゃなかったよな。
馬渕 そうそう。どっちかと言ったら「何見とんねんコラ」という時代(笑)。でも向こうから来てくれたら、ものすごく仲良くなる。今はSNSがあるから交流しやすいよね。
大阪を拠点に、初期の頃は約25台で活動していたVIPカンパニー。彼らのドレスアップは93年頃のクルマ雑誌に取り上げられたのをきっかけに、全国のセダンオーナーたちに大きな影響を与えた。31セド・グロに31シーマのリップ&マッドガードを流用するワザは馬渕サンが先駆けだった。31シーマはインパル731Sフルエアロ+セントラル20の3本足ウイングがチーム内のスタンダードで、このスタイルは「カンパニー仕様」として現在でも当時VIPマニアたちの間で語り継がれている。
武富 31シーマの登場やクラウンが13系に変わってから、ドレスアップが族車チックから高級路線になったかな。ホイールを変えて落とすだけで、めっちゃカッコ良く見えた。
馬渕 ベンツとかヨーロッパ系のイジり方が似合うようになったな。
武富 セダンをドレスアップしていた人は、当時から全国にいたと思うねん。でもあの頃は載れる雑誌がなかった。読者参加型の雑誌って、当時はオートファッションザ・ステージとヤングオートくらいしかなかったからな。でもうまいこと雑誌に載れて、VIPというドレスアップを一般的にできたのはすごく大きかったと思う。
馬渕 いいタイミングで載ったから、ブームになったよな。
その後はクラブファイナルやドレスアップカンパニー、アウトローなど大阪から新たなチームが続々誕生。チームを作って活動するスタイルは、全国へと広がった。VIPセダンの礎を築いたこの2人は、ほぼ同年代(馬渕サンが1歳上)。当時お互いの印象はどうだったのだろうか。
馬渕 最初はややこしそうなヤツやな〜と思ったけど(笑)、クルマをイジるセンスは僕と近くて親近感はあった。「どうせ色を塗り替えるなら、ついでにこれもしとこう」とかね。
武富 馬渕クンはクルマをカッコ良くするのが昔から上手で、しかもそれをしれっとさり気なくやる。値打ちこいて偉そうにしないところがカッコいい。学ぶ点は多かったね。
まだブームとまでは行かないが、最近はあえて当時のVIPセダンを買ってドレスアップする人が増えている。しかもオーナー層を見ると当時を知る人だけでなく、クルマの免許を取ったばかりの若者までいるというのは見逃せない事実。その現状を、2人はどう思っているのか?
馬渕 若い子は、親父サンが昔セダンをイジッていた影響で買う人が多いみたい。あと最近は昔のものが見直されてきて、「あの古臭さがいい」と新鮮に感じるんだろうね。逆に年輩の人は当時乗っていて、もう一度欲しくなった。もしくは乗りたかったけど高くて手が出ず、生活に余裕が出てきたから買って乗るという傾向にある。夢は捨てていないんだな、って思う。でも今はちょっとイジるのがしんどいんちゃうかな。
武富 昔と比べたら、ドレスアップパーツが全然ないからな。
馬渕 昔はお金がなくてパーツを買うのがしんどかったけど、今はお金があってもモノがないというしんどさ。僕も久々に31グロリア(デモカー)を手に入れて、それを痛感した。細かい純正部品が新品で買えなくて、オークションで探したらめっちゃ高い。だから好きじゃないと乗れないし、クルマを維持するにもかなりの覚悟が必要になってくる。
だがJPとガレージ44は、業界側として当時VIPオーナーたちを全面的にバックアップしたいという気持ちが強い。あの頃に一世を風靡したエアロメーカーは現在ほとんどなくなり、エアロの型も廃棄処分される中、JPは現在もエアロを販売し続けている。また、最近は13クラウン用の車高調やブレーキも販売開始し、ドレスアップしたいオーナーにアプローチ。そしてガレージ44も、10年以上新規リリースがなかった31セド・グロ用のエアロを、あえてこの時代に開発(詳しくは下で紹介)。
武富 僕はあの時代のクルマが好きなのもあるし、どのメーカーも開発を辞めて、うちまで辞めたらなくなるから続けている。今後も既存のラインナップはできる限り出し続けていきたい。もともとVIP専門メーカーとして始めたから、最後までこの業界に残りたい。生涯現役(笑)。
馬渕 僕も31系をはじめ、大事に乗るオーナーを応援したい。エアロも今後は少しアレンジしたものを作って、31系を盛り上げていきたいね。
最近再び31セド・グロが盛り上がっているという噂を聞き、現役オーナー時代にも乗っていた31グロリアを新たにフルノーマルで購入したガレージ44の馬渕サン。
現在でもオーナーの気持ちは忘れていないが、メーカーとして31セド・グロ乗りに提案したいこともあった。そこで新ブランド「クラブVIPスポーツ」を立ち上げ、31セド・グロ用エアロを新規で開発した。
イメージは31シーマの「カンパニー仕様」。
「僕が昔乗っていた頃は、31シーマみたいにカッコいいフルバンのエアロがなかった。だから当時31シーマで流行っていたあの仕様を、31セド・グロで表現したらどうなるか。若い頃にできなかったことをカタチにしたかったんです」。
純正の角張ったスタイリングに違和感なく馴染むバンパーエアロ。サイドにドアパネルを採用することで、スクエア感をさらに際立たせる。90年代初期の定番だった3本足タイプのウイングも開発し、フルで装着すれば「31セド・グロのカンパニー仕様」が完成する。
サイズは小振りで、全長・全幅はほぼ純正に近いので走りやすい。年輩から当時を知らない若者まで、幅広い世代に受け入れられるはず。
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文=岩田 直人 写真=冨川 真一